作成日:2021/07/29 by AM   

 私は奇跡を信じない。
 太陽が西から出たところも、海が裂けたところも見たことが無いからだ。
 昨今やたらと、天才だの奇跡だのと、日本語の安売りが気になっていた。
 これからの話は、私の70年の人生で初めて経験したことだ。

 66期のK氏(写真右)が、淡交囲碁会の門を叩いたのは3年前、時を同じくして、 10名程の初心者が入会した時だった。
 故上村先輩の親切で丁寧な指導により、1年前のコロナ騒動まで、月2回程度の集まりを、 ほぼ全員楽しみに活動していた。
 しかしながら、昨年の2月を最後に、例会は休止となり、リモートによるネット囲碁に変更を余儀なくされた。
ネッ卜囲碁は、毎週土曜日に開催され、10〜15名程の参加があった。

 K氏は、ほぼ初心者で入会し、1年前は6級のランクになっていた。 そのK氏が豹変したのは、半年前のことである。
全く負けないのだ。当然ランクはどんどん上がり、昨年末には初段になった。驚くのはこれからだった。全く負けないのだ。 遂に、3月になり五段になった。
 そして、全く負けないのだ。私はK氏に電話をした。 「誰か強い人に打ってもらっているの?今ならシャレで済むから、正直に教えて」
 スマートフォンの向こうからは、K氏独特のカラカラと言う、乾いた笑い声がした。
10代、20代なら、1年で初心者が五段になっても驚かない。
しかし、K氏は古希である。
 中国4000年の歴史でも聞いたことが無い。K氏は何処まで強くなるのだろうか?
 囲碁仲間は、K氏を「奇跡の人」と呼んでいる。
 私はまだ夢の中だ。
 あなたは、海が裂けたところを見たことがありますか?

松本 健 (66回) 
(淡交会報 第86号より 転載) 

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